野々垣君からの質問(5)
前から慶應義塾大・総合政策の大問Ⅱ、第2段落の赤本の訳語を検証しています。今回は第4文を見てみましょう。
¶2
(4)As philosopher of science Steve Woolgar insists, “nature and reality are the by-product rather than the pre-determinations of scientific ativity.”
<赤本の訳>
科学哲学者のスティーヴ~=ウールガーが主張するように、「自然と現実は、科学的な活動の事前決定要因であるというよりもむしろ、副産物なのだ」。
<薮下の訳>
科学哲学者のスティーヴ=ウールガーが言うように、「自然や現実は、科学的な研究活動によって客観的に定義されているものというよりむしろ、科学的な研究活動の副産物」なのである。
<解説>
「科学的な活動の事前決定要因」の訳語だと、「科学的な活動を事前に決定づける要因」ということになって意味不明です。A of Bの名詞構文で、Aが動詞からできた名詞である場合には、この様な誤解を避けるために、「BをAする」だけでなく「BがAする」の訳語も当てはめてみます。あ、京都大学の下線部にこのA of Bが出てきたら、間違いなくこの名詞構文の知識が試されていると思って良いでしょう。
pre-determineという動詞から派生した名詞がpre-determinationです。そこで「科学的な研究活動が予め決定しているもの」と訳出してみます。でも「自然は科学的な研究活動が予め決定づけている」ではちょっと変です。何が変なのかというと、「予(あらかじ)め」とやると時間的な「事前」「事後」ということになってしまうからです。そこで社会構成学が、現実世界は僕らとは独立して客観的には存在しないと言ってるのに立ち返ります。つまり、社会構成主義が否定するのは、「僕らが主観的に自然や現実をああだこうだと言う以前に、科学が客観的に自然や現実を規定している」という考えです。そこから「予め」は「客観的に」に近いことに気がつきます。
繰り返しになりますが、ここまでやると大学入試の「和訳」ではなくて「翻訳」になります。でも、A of Bの名詞構文は大学入試の和訳で試される大切なポイントですから、ちゃんとここで勉強しておいてください。赤本がやっているように「科学的な活動の事前決定要因」とやったら得点はありません。
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