車戸君からの質問(10)その3
<回答>
接続助詞の「て」についてもう少し考えてみましょう。 「て」は前後の文をつないでいるだけなのですが、「理由・原因」「手段・方法」「時間経過」「並列関係」の意味をさりげなく表現することができます。こんな具合です。
「君に会えてとても嬉しい」(理由・原因)
「手をたたいてリズムをとる」(手段・方法)
「桜の季節が過ぎてうっとうしい梅雨になる」(時間経過)
「高くて険しい山」(並列関係)
それぞれの意味を露骨に表現すればこうなります。
「君に会えたので嬉しい」(理由・原因)
「手をたたくことによってリズムをとる」(手段・方法)
「桜の季節が過ぎた。そしてそれからうっとうしい梅雨になった」(時間経過)
「高い山であり、かつ険しい山でもある」(並列関係)
こうして見てみると、接続助詞の「て」がいかに優れているのか分かります。前に薮下がやった訳語をもう一度思い出して欲しいのですが、「彼が僕の時計を盗んだと分かって」の「て」はとても優秀な「説明のための接続助詞」なのです。
⊿彼が僕の時計を盗んだと分かって、僕は腹が立った。
I got mad, having found out that he stole my watch.
先ず「腹が立った」と言いたいことをいっておいてから、次に続いて「彼が僕の時計を盗んだと分かって」と腹が立ったわけを説明しているのです。確かに主節に対して分詞節は「理由・原因」の関係にあるのですが、becauseやasを使うのと比べると自分の行為や状態を正当化するような露骨さはありません。次の2つを比べてみると一目瞭然です。
「彼が時計を盗んだと分かって、僕は腹が立った」(付加的説明)
「僕は腹が立った。なぜなら彼が僕の時計を盗んだことが分かったからだ」(理由・原因)
さて、件(くだん)の京大の文中分詞構文ですが、これも「て」を使うと上手く訳せます。
⊿水の分子は、空気中の他の分子とぶつかって動く方向を頻繁に変えて、ジグザグに動いてそこにたどり着いた。
A water molecule arrived there by a zig-zag path, the direction of its motion having been changed frequently and abruptly by collisions with other air molecules.
確かに、主節と分詞節との関係は「理由・原因」ですから、赤本の解説者がやったように「なぜなら」と訳出しても間違えではありません。こんな具合でしたね。
「水の分子は、ジグザグの経路をたどってたどり着くのである。なぜなら、その動く方向が空気中の他の分子とぶつかることで、しばしば突然変更されるからである」
でも、「付加的な説明」と「理由・原因」とは別の表現であることをちゃんと理解しておく必要があります。主節の主語と分詞の意味上の主語が違う場合については次回説明します。
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