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車戸君からの質問(10)

<質問>
前回と同じ理由で、京都大学赤本の正解に納得できないところがあります。問題は1993年度[1]の下線部(2)です。
But a water molecule that finds itself on a blade of grass fringed with frost arrived there by a zig-zag path, the direction of its motion having been changed frequently and abruptly by collisions with other air molecules.
赤本の訳語はこうなっています。
しかし、霜に縁取られた草の葉に付着した水の分子は、ジグザグの経路をたどってたどり着くのである。なぜなら、その動く方向が、空気中の他の分子とぶつかることで、しばしば突然変更されるからである。
僕が納得いかないのは、the direction of its motion having been changed~を赤本は「the directionを意味上の主語とする独立分詞構文で<原因・理由>を表しているので、訳出の際には <なぜなら~だからだ> とした方が前文とのつながりが自然である」と解説している点です。これは文の途中に出てくる分詞構文だから、僕は付帯状況分詞構文だと考え、「~しながら」という「同時表現」で次のように訳したのですが、これではいけませんか?
しかし、霜に縁取られた草の葉に付着した水の分子は、空気中の他の分子とぶつかって動く方向を頻繁に変えながら、ジグザグに動いてそこにたどり着く。
そして、前の回で薮下先生は「分詞の主語は主節の主語と一致する」と仰ってましたが、分詞havingの意味上の主語the direction of its motionは、主節の主語a water moleculeと一致していません。こんなことがあるのでしょうか?
<回答>
車戸くん!学年トップの君のことですから、英語はそこそこできると思ってましたが、ここまでとは思いませんでした。前にここで書い様に、文頭分詞構文は「」と「理由」、文中分詞構文、いわゆる「付帯状況分詞構文」は「同時」と「連続」の意味を表します。それに、この京大のthe direction of its motion having been changed~は文中分詞構文だから、君の言うとおり「同時」か「連続」と考えるのが自然です。
主節が「水の分子はジグザグに動いて来てそこにたどり着いた」、付帯状況が「空気中の他の分子とぶつかって動く方向が頻繁に変わってしまった」ですから、この2つが「主節→分詞」の順番で「連続」して起こったとは考えられません。だって、having been changed~の分詞化前の形はhad been changedだったのですからね。本来ならその逆で「空気中の他の分子とぶつかって動く方向が頻繁に変わってしまう」、次に「水の分子がジグザグに動いて来てそこにたどり着く」はずです。だから「AしながらBした」の同時で訳出して、「水の分子は、空気中の他の分子とぶつかって動く方向を頻繁に変えながら、ジグザグに動いてそこにたどり着いた」としたわけですね。これは、なかなかの推理力だと思います。
でも、英文法は数学の定理と違って、なかなかルール通りには行きません。確かに、付帯状況分詞構文は「同時」と「連続」を表現するのによく使われるのですが、こんな例外もあります。
彼が僕の時計を盗んだと分かって、僕は腹が立った。
I got mad, having found out that he stole my watch.
これは「同時」でも「連続」でもありません。つまり「彼が僕の時計を盗んだと分かりながら、僕は腹が立った」も「僕は腹が立った、そして彼が僕の時計を盗んだことが分かった」も両方とも変ですよね。そこで、赤本の解説者がやったように、後半を「理由」にして次のように訳したくなるわけです。
僕は腹が立った。なぜなら彼が僕の時計を盗んだと分かったからだ
I got mad because I found out that he stole my watch.
「理由」で訳したい気持ちは良くわかるのですが、「理由」なら普通は文頭分詞構文で次のように表現します。
彼が僕の時計を盗んだと分かったので、僕は腹が立った。
Finding out that he stole my watch, I got mad.
そもそも、「理由」であることをハッキリさせたければ、ちゃんとbecauseを使って書けばよいわけです。じゃあ「理由」じゃなかったらどう考えればよいのかというと、これは「説明」と解釈すれば良いのです。「同時」だ「連続」だ「理由」だと色々分類してみても、結局はみんな主節の「説明」に過ぎないわけです。「言いたいことの核心その付加的説明」というのは英語の基本的な構造です。ちょっと長くなったので、続きは次回にします。試験を作ったり採点したりでちょっともたつくかもしれません。お許しを!

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