日本の劣化④ もう民間業者に全部任せたら?
前回は赤本の解答が間違っている話をしました。今回は国立大学の推薦入試の英語が間違っている話をします。平成31年度、香川大学ナーシング・プロフェッショナル育成入試の小論文Ⅰの第1段落です。ちょっと長くなりますが引用しておきます。
If you ask who are the leaders in nursing education, most will name those who hold an appointed or elected leadership position, such as a department chair, or an officer in student government or professional association. Instead, I focus here on the opportunity for nurse educators to give in every student not only the knowledge and skill to be a competent practitioner*, but also the qualities and commitment to be an “everyday leader.”
あ、これは英語のミスではないのですが、competent practitionerに「有能な実践家」という注が付いています。最近では研究者の考えるリーダーシップと実践家の考えるリーダーシップを区別して論じるのが流行(はやり)で、「リーダーシップ実践家」と言うと「実際に優れたリーダーシップを実地で発揮している人」の意味で使われます。でも、一般に言う「実践家」は「研究者」と対比して使い、机上の空論を弄ぶのではなく「その道でプロとして活躍する人」くらいの意味で使います。ですから、practitionerに「有能な実践家」と言う注をつけると、「リーダーシップ実践家」のことを言っているように聞こえます。そのことを頭に入れておいてください。
さて、問題文にあるミスの話をしましょう。giveは第3文型でも第4文型でも使えます。こんな具合です。
⊿彼は私に本をくれた。
He gave a book to me.(第3文型)
He gave me a book.(第4文型)
問題文では「ことシリーズ」、for me to goの形を使ってfor nurse educators to give~となっていますね。そこで、問題文をI goという普通の文に書き換えるとこうなります。
⊿看護教育に携わる者は、子供たち一人一人に、有能な看護師になるための知識や技術だけでなく、everyday leaderになるための資質や責任についても教えます。
Nurse educators give to every student not only the knowledge and skill to be a competent practitioner, but also the qualities and commitment to be an “everyday leader.”
普通なら 「give 何を+to誰に」になることろですが、問題文では「何を」が長いので後ろに回って「give to誰に+何を」になってます。英語は長いものは後ろに回せ、でしたね!でも、明らかにinではなくてtoでないといけません。
さて、ここで対置されているnot only A but also BのAとBに注目しましょう。看護学校の先生が教えるのはAだけでなくBだ!と言ってます。つまり、有能な看護師になるための知識や技術だけでなく、日々の看護の仕事をやるなかでリーダーとなるための資質や責任も教えなさい!と言ってるわけです。
では、最初のpractitionerに戻りましょう。これまでの文脈からこれを「有能な実践家」とするのは誤訳だということが分かります。ここはちゃんと「有能な看護師」と訳さないといけません。
香川大の作問委員の先生たちは英語を知らないし、書いてある英語も読めていないですね。9月3日付けの朝日新聞に、私立大が一般入試を民間業者に委託する話が載ってます。国立大も香川大のように間違った問題しか作れないのなら、共通テストだけでなく2次試験の問題も業者委託する方が良いと思います。
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