AKB47君の憂鬱・描出話法2
前回、日本語の描出話法は「直接話法」とほぼ変わらないのに、英語の描出話法は文構造以外はほとんど「間接話法」に近いという話をしました。そして、英語の描出話法を、その意味や構造に忠実に日本語にすると、なんだかヘンな訳が出来上がったので、描出話法で書かれた英語を和訳するにはちょっとした工夫が必要だという結論に達しました。前には森博嗣氏のミステリーの一節を使ってそれを考えたのですが、ここでもう一度簡単な例文で確認しておきましょう。
【直接話法】
⊿「あたしがあなたを明日ここで車で拾ってあげるから。何時にここに来るつもりなの?」とリンダは尚子に言った。
Linda said to Naoko, “I will pick you up here tomorrow. What time will you come here?”
【間接話法】
⊿リンダが尚子を次の日そこで車で拾うつもりだったと言い、いつ尚子はそこに来る予定だったのかとリンダは尋ねた。
Linda told Naoko that she would pick her up there the next day, and asked her what time she would come there.
【描出話法】
⊿彼女は彼女を次の日拾そこで車で拾うつもりだった。何時に彼女はそこに来るつもりだったのか。
She would pick her up there the next day. What time would she come there?
先ず、英語に注目しましょう。直接話法の引用符(” “)を取っ払って間接話法にすると、セリフが地の文の時間の流れに放り込まれるので「時制の一致」が起こります。だから、willがwouldに変わってます。そして、視点が話者から地の文を書いている著者に移行するので、「人称代名詞の転換」が起こってIがsheに、youがherに変わってます。また、「時や場所の副詞の転換」でhereがthereに、tomorrowがthe next dayに変わります。さらに、文構造も著者目線からの説明になるので、said to 人, “文”がtell人that文、ask人+間接疑問文に変化してますね。
さて、件(くだん)の描出話法ですが、文自体は直接話法と同じ構造をしています。でも「時制の一致」や「代名詞と副詞の転換」が間接話法の時と同じででキッチり起こってます。つまり、英語の描出話法は、文構造は直接話法だけど、時制の一致や代名詞と副詞の転換などで、構成要素のほとんどが間接話法でできているわけです。
次に、日本語に注目しましょう。直接話法と間接話法は問題ないのですが、描出話法の和訳はどうもいけません。これでは何が言いたいのだかさっぱり分かりませんよね。どうしてかと言うと、直接話法には伝達部分(Linda said to Naoko)があって、誰が誰に対して発話しているのかが簡単に分かります。間接話法でも、伝達部分が多少説明的になってますが(Linda told Naoko that文、asked her what文)誰が誰に言ってるのか、誰が誰に質問してるのかがハッキリしています。でも、描出話法ではこの伝達部部がスッポリ抜け落ちてしまっているので、発話者とその相手が誰なのかよく分からなくなってしまってるのです。そして、分かりにくさに追い打ちをかけているのが「時制の一致」と「代名詞と副詞の転換」です。時制は小説の地の部分の時間(過去形)に混ざり込んでしまい生々しさが削がれていて、名詞も全部代名詞化されているので具体性が全くなくなってしまってます。これをそのまま日本語にすると、意味不明の気持ちが悪い文章になってしまうわけです。
それじゃあ、描出話法を和訳するのはどうすればよいかというと、直接話法の「 」を外して、伝達部分を削ってしまえば良いのです。
英語の描出話法は「文構造は直接話法、時制の一致や代名詞と副詞の転換は間接話法」でしたね。そして、英語は「時制の一致」や「代名詞と副詞の転換」をやっても、文構造を直接話法にしさえすればセリフの持つ生々しさを保持できるみたいです。でも、日本語で「時制の一致」や「代名詞と副詞の転換」をやってしまうと、何が言いたいのだかさっぱり分からなくなるのでそれは止めにして、「文構造は直接話法」だけを強調して和訳するのです!こういう具合にやります。逆に、こうしないと日本語ではセリフの生々しさを残せないのです!
⊿あたしがあなたを明日ここで車で拾ってあげるから。何時にここに来るつもりなの?
She would pick her up there the next day. What time would she come there?
だから、京都大学の問題も先ずは直接話法にしてやって、それから伝達部分と「 」を取っ払ってしまえば良いのです。 直接話法にするときに注意すべきは、sheやher daughterが具体的に誰のことを言っているのかを特定すること、そして文脈からお母さんはもう死んでしまってこの世にはいないので、wouldが仮定法だと見抜くことですね。
【直接話法】
⊿「もしお母さんが生きていたら、お母さんは娘の私がこんな母親になったことをどう思うのかしら。お母さんは私にどんな助言をしてくれるのかしら。赤ん坊だった自分の孫が大きくなって、ますます手のかかる女の子になってゆくのを、お母さんならとうしたかしら」とスーザンは思った。
Susan said to herself, “What would my mother think of the mother I‘ve become? What advice would she give me? How would she have handled the increasingly challenging young woman her infant grandchild has grown into?”(直接話法)
【描出話法】
⊿お母さんが生きていたら、お母さんは娘の私がこんな母親になったことをどう思うのかしら。お母さんは私にどんな助言をしてくれるのかしら。赤ん坊だった自分の孫が大きくなって、ますます手のかかる女の子になってゆくのを、お母さんならとうしたかしら。
What would she think of the mother her daughter had become? What advice would she give her? How would she have handled the increasingly challenging young woman her infant grandchild had grown into?(描出話法)
さて、AKB47君の答案を見てみましょう。
彼女は自分の娘が母になったことについてどう思うのだろうか。娘に何と忠告するだろうか。幼い孫が成長してますます手のかかる若い娘になるのをどう扱っただろうか。
先ず、「自分の娘が母になったこと」は誤訳です。それならWhat would she think of her daughter becoming a mother?になってないといけません。それに仮定法のwouldに気がつかなかったのも痛い!でも、描出話法がどんなもので、それをどう和訳したら良いかなんて高校では教わっていないのだから、そんな英文を出題する京都大学が一番痛い、と薮下は思います。この問題の京都大学の採点基準を是非ともみてみたいものですね。AKB47君!こんな英文は和訳できなくてもOKですよ!
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2 Comments
これとは関係ないのですが長文の下線部和訳で
Clearly, there is a sense of dishonor attached to gossip among English males, an unwritten rule to the effect than, even if what one is doing is gossiping, it should be called something else.
の訳なんですが
明らかに、イギリスの男性の間では、噂話をすることにどこか不名誉であるといった意識があり、たとえ実際には、噂話をしていても、別の呼び方をすべきであるという不文律がある。
と模範回答にはあったのですが、
unwritten ruleの後のto the effect thanの訳はどうしたらいいですか?
あと不文律ではなく暗黙のルールとしたのですがそれは間違いですか?
先ず、「不文律」も「暗黙のルール」も同じ意味ですから、間違いではありません。次に、to the effect thatですが、これは森田君の見間違えではないですか? A to the effect thatS+Vで「SがVするという内容のA」の意味になります。つまり、この英文はan unwritten rule to the effect that it should be called something elseにeven if what one is doing is gossipingが割り込んでいる文構造をしているわけです。問題文をもう1度良く見直してみてください。
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