森田君の挑戦(16)
<問題>
1996年度・京都大学
ワープロやパソコンが普及したおかげで、「書く」という行為はすっかり様変わりして、たとえば「筆をとる」といった言葉も死語になりつつある。そうはいっても、ペンを紙の上でさらさらと走らせていくときのあの心地よさには、なかなか捨てがたいものがある。
<答案>
The deed of writing has completely varied because computers and word processors have been spread. So some words aren’t used now, for example “take a pen in hand.” But I want to write with a pen because I like the feeling of writing smoothly with a pen.
<読者への挑戦>
赤い部分の英語が間違っています。さて、どうしてそれが間違っているのか、またどうすれば正しい表現になるのかを考えてみてください。
<添削>
長澤まさみが主演している「高校入試」は、日本の入試制度、教師や親にリアリティーがないことを痛烈に皮肉っているドラマです。子供たちだけがそれに気がついていて、その可笑しさをネットという舞台の上に引きずり上げて喜んでいるわけです。あ、「高校入試」のスタッフさん!言ってくれれば、薮研でちゃんとrewriteしてあげますよ!さて、森田君!今日は「行為」、「変化する」、「普及する」、そして「さらさらと書く」の4つを勉強しましょう。
①the deed of writing
deedには確かに「行為」の意味があるのですが、これはとっても文語的で堅い表現ですから普段は使いません。だから、大学入試の英作文でdeedなんか絶対に使っちゃだめですよ!ここではactを使うと良いでしょう。actionでもかまいません。どうしてかというと、actは「1回の行為」、actionは「目的を達成するための一連の行動」くらいの意味ですから、両方とも「書く」行為に当てはまるからです。でも、behaviorは「型にはまった振る舞い方」ですから、ここでは使えません。だから、The deed of writingをThe act of writingにしてやります。
②varied
varyは、リズムやスピードなどが徐々に変わったり、天候などが刻々と変化してゆく様子を表します。でも、ここでは書くという行為がすっかり様変わりしたと言っているので、varyは使えません。一番一般的な「変わる」の意味のchangeを使ってhave completely changedとしてやるのが良いでしょう。
③have been spread
ワープロやコンピュータが「普及する」の意味のspreadは自動詞です。言い換えると、勝手に広がるわけですから、受け身にはなりません!一方、spreadを他動詞で使うときは、「うわさ」や「ニュース」や「宗教」を広めたり、「塗料」を薄く塗ったり、「地図」を広げたりするときに使います。だから、have been spreadをhave spreadとしてやります。また、形容詞widespreadを使ってhave become widespreadとしても良いでしょう。
④writing smoothly
森田君!ちゃんと「同格のof」を使うようにしていますね!なかなか感心です。森田君のこの答案も、文法的に間違っているわけではありません。森田君は「さらさらと書く」をwriting smoothlyと英訳したのですが、こうすると良い文章が頭の中に次から次へとわき出てくる様子を表すことになってしまいます。「さらさら」とか「ピカピカ」などの擬音語はそのまま英訳なんかできません。「さらさら書く」とは「ペンの書き味が良い」わけですから、the good feeling of writing with a penとしてやれば良いでしょう。
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This was written by
yabu. Posted on
土曜日, 11月 17, 2012, at 4:22 AM. Filed under
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6 Comments
ワープロやパソコンが普及したおかげで、
京都大学が本解として想定していたのは
Due to the wide spread use of wordprocessors and personal computer,
とのことです。念のため
とてもキレイな英語だと思います。薮下が生徒達の英作文を添削するとき、問題集の「正解」や大学側が想定する「本解」と一致しなくても、意味が通っていれば、少々稚拙な表現でも減点しないことにしています(ま、この森田君の答案は小学生レベルですがね)。でも、京都大学の特定年度の問題の本解をご存じなこと、ちょっとビックリしています。僕の情報網の及ぶ範囲はせいぜい県立大や中堅の国立大くらいで、友人がその採点に携わっていたので聞き及んだのがほとんどです。さすがに京大の採点をやってるような友人はおりません。県立大レベルの傾向としては細かい文法的なミスよりも英文の流れや内容のおもしろさを高く評価している様子でした。
「そうはいっても」は
「万年筆やボールペンを使う回数が減っていくであろうことは認めるとしても」
ではないでしょうか。(2)ですから。
公人くん!なかなかするどいご指摘ですね。でも、without just causeは残念ながらここでは使えません。また、「など」と誤魔化しているのもいただけません!without just causeは法律に関連する文脈で使う慣用句で、犬やイルカの話で使うと、へんてこりんな小学生の文章になってしまいます。ま、ここら辺は日本人には多分分からないと思います。without just causeはこんな具合に使います。
⊿彼のことを有罪だと思っているが、何の正当な根拠はない。
They believe him to be guilty but without just cause.
もし犬やイルカの話で「何の根拠もなく」と言いたいのなら、こうします。
⊿私たちは何の根拠もなく犬やイルカを賢いと思っている。
We regard dogs and dolphins as wise animals without any good reason [or without any facts].
薮下が採点官だったら、without just causeは減点ですね。そう言えば、薮下が河合でやっていた頃、京都大学の英作文のことについて、公人くんと同じ事を言っていた先生がいました。曰く、「京都大学の英作文(特に2つ目)は、問題文の日本語をそのまま英語にすると上手く行かない。それぞれの日本語が、問題文の文脈でどんな役割を果たしているのかを考えて、先ず和文和訳をする」。これはまさに公人くんがやっていることですよね。つまり、「漠然と」を後半の脈絡を考えて「正当な根拠なしに」と読み替えろと言ってました。ま、確かにその通りなのですが、ここでは別段vaguelyを使っても減点されることはありません。without just causeなんかよりもはるかに自然な英語です。
また、その先生は文と文との接続に注意をしなさいと言ってましたね。「2つの文が接続詞ナシでつながっていても、前後が<主張→理由・根拠>の関係ならば、becauseを、<譲歩→主張>の関係ならば[al]thoughをちゃんと補いなさい。逆に、接続詞らしきものがあっても、それをそのまま英語にすると大概は上手く行かないので、2文の関係をしっかり読み解いてふさわしい接続関係を考えなさい」と言ってました。これも公人くんがやっている通りで、「そうはいっても」を譲歩表現「万年筆やボールペンを使う回数が減っていくであろうことは認めるとしても」にしてますよね。
薮下は河合時代にこの先生に予備校英語を教わりましたから、彼の影響をとても強く受けていますし尊敬もしています。ですから、公人くんが言いたいことはとても良く理解できます。でも、受験英語なんてそんなに大したものじゃないのですよ!大学側は受験生に翻訳家並みの高いレベルの英語力を要求してはいません。京都大学も格調の高い知的な英語を求めているとは思えません。米国の中学生レベルの英語が正しく書ければそれで合格させてくれるはずです。ま、「米国の中学生レベルの英語」が結構難しいのですがね。
この「森田君の挑戦」も、「期待される理想的な英文」ではなくて、「普通の(自然な)英文」を頭に置いて添削をしています。そこのところが「予備校英語」とはちょっとちがいます。つまり、問題集や赤本の正解とは違うのだけれど、これだけ書いたら言いたいことが十分に通じる「自然な英語」になっているはずです。逆に、薮下に言わせると、問題集や予備校が用意する正解の方が、さっきのwithout just causeじゃないですが、とっても変な英語がたくさんありますよ!
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京都大学III(2)には「ある鉄則」がありますが(笑), は和文和訳といった「低次元」のレベルではないのです。河合塾のその先生がどうおっしゃったかは知りませんが。
公人君が何を言いたいのか薮下にはわかりませんが、君の答案の英語の方が「低次元」だと薮下は思いますがね。あ、ちょっと言い過ぎました。君の謎かけに付き合っている暇はありません。成績の締め切りがもうすぐそこなのでごめんなさいね。ま、君がちゃんと会話をしてくれるのであれば別ですがね。
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