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AKB47君からの質問

<質問>
以下は、2008年度の京都大学の下線部訳と赤本の解答です。
A new finding allows one to see for the first time a part of nature―a small piece of the puzzle of how something functions. Once I have gotten into a problem, I find it extremely helpful to get a complete perspective, to learn what earlier scientists thought about it.  I want to see not only what lines of thought proved to be productive, but also where and why certain other directions proved to be unproductive.
「新しい発見によって、人は初めて、自然の一部を、つまりあるものがどの様に機能しているのかというパズルの小さな1ピースを見ることができる。いったん問題にぶつかると、以前の科学者たちがそれについてどう考えていたのかを知り、全体像をつかむことが極めて役に立つと私は感じる。私はどのような道筋で考えるのが生産的だと判明したのかだけでなく、ある他の方針が、どの点で、なぜ、非生産的だと判明したのかについても知りたいのだ」
I find it extremely helpfulのitは形式目的語で、本当の目的語がto以下ですよね。でも、コンマ(,)を挟んでもう1つtoが出てきます。僕はこのtoをin order toだと考えて、「以前の科学者達がそれについて考えていたことを学ぶために、大局的な見方を手に入れることが大きな手助けになると思う」と訳しました。でもこれは、赤本の全訳とは全然ちがっています。薮下先生のお話では、赤本の訳は「真っ赤なウソ」ばっかりだということですが、これもそうなのでしょうか?そして、僕の和訳はどうでしょうか?どうか納得の行く説明をお願いします。
<回答>
AKB47君!今度は京都大学ですか?!もしかして、君は京都大学が第1志望なのでしょうかね?あ、薮下はよく赤本のミスを指摘はしますが、「ウソばっかり」とは言ってませんよ!あってもせいぜい年度に1つか2つ程度です。そして、ご質問の下線部の和訳ですが、「真っ赤なウソ」とまでは言いませんが、「誤訳」には違いありません。薮下はこういう訳文を「ちゃんこ鍋」と呼んでいます。言い換えると、元々あった英文の論理的な順序を全く無視して、具材を全部一度に鍋に放り込んだような訳文にしてしまうわけです。もし薮下が採点官だったら、バッチリ減点するでしょうね。
この京都大学の下線部の1つのポイントが、コンマ(,)の訳出です。コンマには大きく分けて3つの働きがあります。 先ず1つめは「同格のコンマ」です。言い換えると、コンマを挟んでその左右にある語句が、同じ対象を別の言葉で説明したものになっているわけです。順番は普通「抽象・総合的→具体・分析的」の順です。こんな具合です。

その牧場はケニヤの首都であるナイロビから北へ6時間の所にあります。
The ranch is six hours north of Nairobi, Kenya’s capital.
これを見るとNairobi=Kenya’s capitalの関係が成り立っているのが分かりますね。言うなれば、このコンマは左右の語を並列に並べる働きを持っているわけです。さて、2つ目は「区切るコンマ」です。日本語の読点(、)と違い、英語のコンマはものすごい力で左右をぶった切ることができます。ですから、「区切るコンマ」はどちらかというと日本語の句点(。)に近い。だから、音読をする際には、非制限用法の関係代名詞の前でポーズ[休止]を置くのです。
ムギー牧場は「ライキピア・プレデター・プロジェクト」メンバーだ。そして、そこは野生生物学者が経営している。
Mugie Ranch is part of the Laikipia Predator Project, which is run by a wildlife biologist.
非制限用法の関係代名詞は、コンマの部分で大きく文が区切れます。だから例文の日本語訳のように、和訳する際は句点(。)を打ってそこで文を終わらせます。そして、and、but、becauseの接続詞でつないで、先行詞を代名詞化させた主語から次の文を始めると明快な和訳ができあがります。最後に、3つ目は「つなぐコンマ」です。これは、接続詞andやorの代わりを務めます。中学以来お馴染みの、A, B, and Cもこれに当たります。
自分の書斎には机、椅子と、ソファが必要だ。
I need a desk, a chair and a sofa in my study.
本来なら、A and B and Cと書くべき所を、andの代わりにコンマでAとBをつないでやるわけです。あ、A or B or Cでも同じ事が起こります。
さて、それを頭に置いて京都大学の下線部を見てみると、「全体を視野に入れること」と「今までの科学者たちがそのことをどの様に考えてきたかを学ぶこと」の間に「抽象→具体」の流れが見て取れるので、このコンマは「同格のコンマ」だと分かります。ですから、正確にこの英文を和訳するとこうなります。
全体を視野に入れること、言い換えると、今までの科学者たちがそのことをどの様に考えてきたかを学ぶことが大きな手助けになると私は思います
赤本の和訳は、一見すると「つなぐコンマ」の様に見えますが、それならば「全体像をつかみ、以前の科学者たちがそれについてどう考えていたのかを知ることが極めて役に立つと私は感じる」の順番になってなくてはいけません。つまり、赤本はA and B の順序を逆転させてしまって「BとA」と訳出してしまっているわけです。さっき薮下は赤本の和訳を評して「ちゃんこ鍋」だ!と言ったのはそういうわけです。
もしこれが「区切るコンマ」だとするなら、コンマを挟んで左右のtoは全く別物なわけですから、2つ目のtoをin order toだと考えるのが自然でしょう。そうすると、「今までの科学者たちがそのことをどの様に考えてきたのかを学ぶために、全体を視野に入れることが大きな手助けになると私は思う」という和訳ができあがります。そして、これはまさにAKB47君の答案と同じ内容です!この答案は「区切るコンマ」を正しく訳出しているので、減点はできないと薮下は考えます。でも、論理的には「全体を視野に入れるために、今までの科学者たちがそのことをどの様に考えてきたのかを学ぶことが大きな手助けになる」の方がしっくりきますよね。
おそらく、赤本の著者もこれを最初は「区切るコンマ」だと解釈したのだと思われます。でも「BするためにA」ではちょっとおかしいかなと思い、AとBとの論理的な関係をボカし薄めて「BしA」と誤魔化したのでしょう。その結果、「同格のコンマ」でもない、「区切るコンマ」でもない、「つなぐコンマ」でもない、なんだかよく分からない「ちゃんこ鍋」の様な和訳になってしまったわけです。それに、赤本の著者は解説でこのコンマに対して一切何の説明もつけてはいません。これってちょっと卑怯でしょ!
でも、パッと見て論理がハッキリしないこの英文は一種の「悪文」です。こんな英文に下線を引いて訳せと言っている京都大学が一番卑怯だと薮下は思います。

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