乾君の挑戦・その16
<問題>
次の日本語を100字前後の英語で要約しなさい。(京都大学2016年度予想)
貧困かが急激に進行している。海外メディアは日本国民の貧困度が危機的水域に入っていることを指摘しているが、国内メディアの反応は鈍い。日本はOECDの相対的貧困率ランキング6位であり、貧困率は2009年に16%に達した。生活保護受給者も増え続けている。
しかし、政府はこの問題を深刻なものと受け止めていない。国会での答弁でも、首相は貧困対策は弱者支援のための資源分配ではなく、経済成長によるほかないと相変わらずの「トリクルダウン」の夢物語を語っている。
国際競争力のあるセクターに国民資源を集中し、そこが成長を牽引すれば、国民全体がその余沢に浴し豊かになるという「集中と選択」戦略はすでに破綻した。旗振り役だった新自由主義者たちもついに「トリクルダウンはない」と言い始めた。グローバル経済に最適化する努力を怠った生産性の低い国民(足手まとい)には余沢に浴する権利がないというロジックである。
トリクルダウンはないが、あくまで成長をめざし、分配はしないと首相は高姿勢を続けるものの、頼みの株価は年初から下げが止まらない。
日本の経済政策は失敗した。「プランB」について考えるときだと私は思うが、政府は政策の失敗を認めず、同じ政策をさらに強化することによってしか危機は乗り切れないと言い立てる。既視感があるのは、これが大日本帝国指導部の失敗の道筋そのままだからである。
1942年のミッドウェー海戦敗北で日本の戦争計画は破綻した。その時点で失敗を認め和平工作を始めていれば、おそらく本土の空襲、南方での壊滅的な敗戦も原爆投下も回避できただろう(明治以来の海外植民地の全てを失っただろうが)。
失敗を認められない権力者が事態を破局的なものにする。それを日本人は歴史的経験から学んだと思っていたが、何も学んでいなかったようだ。
貧困問題は今すぐ手を打たないと将来に取り返しの付かない禍根を残す。生活支援の強化、正規雇用への切り替え、最低賃金の引き上げ、教育費・医療費負担の軽減、いずれも国家的急務である。先送りすれば日本に未来はない。
(週間アエラ2016年2月1日号・内田樹・eyes273)
<答案>
The number of people who are poor is rapidly increasing in Japan, but the government in Japan doesn’t consider it as a serious problem. Therefore, many politicians mistakenly believe that all they have to do is not help poor people but make the Japanese company stronger in order to solve it. They don’t want to admit that their thought is wrong, so they think so, and the problem becomes more serious. They had better admit that their thought is wrong and think about new ways to solve the problem.
(89字)
<読者への挑戦>
赤い部分の英語が間違っています。さて、どうしてそれが間違っているのか、またどうすれば正しい表現になるのかを考えてみてください。
<添削>
乾くん!あ、本当は服部君なのですが、これは京都大学が今年の2次試験で出題すると思われる要約問題の演習です。去年京都大学に入学した車戸君が、大学の講義中に教授が「和文を英文で要約させる!」と言っていたそうです。こうなったら対策を講じないわけにはいかないのが薮下です。これで2回目で、今回は段落冒頭文をつなげれば要約ができそうなエッセイを服部君にやってもらいました。冒頭文をつなげるとこんな具合になります、
「(日本で)貧困化が急激に進行している」→「政府はこの問題を深刻なものと受け止めず、経済成長が問題を解決すると言う」→「しかし日本の経済政策は失敗した」→「政府は政策の失敗を認めず、政策強化で危機は乗り切れると言う」→「失敗を認めない権力者がいつも事態を破局的なものにする」→「貧困問題はいますぐに手を打たないと取り返しのつかないことになる」
服部君の答案もだいたいこのラインに沿って英訳されています。さて、今日の添削のポイントは1つです。
1.「thoughtとthinkingの違い」
thoughtもthinkingも両方とも「考え」という訳語が付きますが、区別がはっきりしません。ここには「thoughtは思考にもとづく考え、thinkingは考えること」と書いてありますが、要領を得ません。薮下にはどこが違うのかこれだけではよく分かりません。
⊿ある考えが突然僕の頭に浮かんだ。
Suddenly a thought came to me.
⊿政治について最近の学生達の考えはどうなんだろうか。
What is the current student’s thinking on politics?
さて、この2つを比べると一目瞭然ですね。thoughtが「1人1人が抱く考え」であるのに対して、thinkingは「グループ全体の思考のベクトル、意見、判断、方針」なのです。
答案では「日本政府の方針」の意味で「考え」を使っているので、thoughtではなくてthinkingにしなくてはいけません。
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This was written by
yabu. Posted on
金曜日, 2月 19, 2016, at 2:24 PM. Filed under
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