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野々垣君からの質問(1)

<質問>
これは慶應義塾大・総合政策の大問Ⅱの第2段落です。
 In its most radical form, “hard” constructivism takes this symbolic and ideational character of environmental knowledge extremely seriously. It insists that it is social context alone that conditions and determines our concepts for understanding the world, and so creates the world, at least effectively, in the process.  This position suggests that things are true because they are held to be true by the socially powerful and influential, because they are true on television, and because they are true in our minds.  As philosopher of science Steve Woolgar insists, “nature and reality are the by-product rather than the pre-determinations of scientific activity.”  Environmental conflicts are, therefore, struggles over ideas about nature, in which one group prevails, not because they hold a better or more accurate account of a process―soil erosion, global warming, ozone depletion―but because they access and mobilize social power to create consensus on the truth.
赤本の和訳はこうなっています。
その最も急進的な形である「極端な」構成主義は、環境の知識の、この象徴的で観念的な特性をきわめて真剣に受け止める。ただ社会的な状況のみが、世界を理解するための概念を条件付け、決定し、そうして世界をその過程で、少なくとも実質的に創造するのだと、その考えは主張する。こうした立場は、事物が真なのは、社会的に権力のあるものや影響力のあるものがそれを真だと考えているからであり、テレビ上では真だから、私たちの心の中では真だからだと、示唆している。科学哲学者のスティーブ・ウールガーが主張するように、「自然と現実は、科学的な活動の事前決定要因であるというよりもむしろ、副産物なのだ」。それゆえに環境的な対立は、自然論を巡る争いなのであり、そこでは一団体が優勢となるにしても、それは土壌浸食とか、地球温暖化、オゾン量減少といった変化のよりよい、あるいはより正確な説明ができるからではなく、真理に関する合意を生み出す社会的な権力に接近し、その権力を動員するからなのだ。
哲学や思想を扱っている英文は、抽象度が高くて分かりにくいのですが、僕には英語以上に日本語の方がさっぱり分かりません。この日本語訳は本当に正しいのでしょうか?つまり、いつもの赤本の誤訳が原因で分かりにくいのでしょうか?それとも、「構成主義」が元々分かりにくい思想なのでしょうか?薮下先生の意見を聞かせてください。
<回答>
野々垣くん!この質問を君からもらったのが1ヶ月ほど前のことでした。今、君は慶応大学を受験している最中だと思います。回答がものすごく遅くなってしまってごめんなさいね。総合政策の大問Ⅱはいつも抽象性の高い難解な英文ですが、設問はとてもシンプルで判別しやすく作っています。下手をすると、問題文を読まずに解いた方が解きやすいくらいです。
さて、ご質問の赤本の訳語ですが、君の言うとおりで、まったくわけが分かりませんよね。理由は簡単で、この解説者は「構成主義」を全く知らなかったからです。ま、お金をもらって解説を書くのですから、多少は「構成主義」について勉強してから和訳すれば、もう少し分かりやすい日本語になったんじゃないかと思います。
第1段落冒頭の英文もそうです。
環境は、異論はあるにしろ、私たちの想像力の産物である。
The environment is arguably an invension of our imagination.
「環境は私たちの想像力の産物だ」と言われても何のことだかサッパリ分かりません。これは社会構成主義の「人は実世界を客観的に捉え理解するのではなく、自分の持っている主観的な認識の枠組みや知識によってそれを理解し、自分なりの意味を作り出す」という主張が分かっていれば簡単です。つまり、この英語はこう訳出すると分かります。
環境は間違いなく、僕らの外に客観的に存在するのではなく、僕らの主観的な想像が生み出したものである。
どうですか?赤本の訳よりも大分分かりやすくなったでしょう。でも、これは大学受験の英文和訳ではなくて、翻訳の技術が必要になります。だから、赤本が一概に悪いわけではありません。でも、君が取り上げた赤本の訳語の中には、いくつかおかしなところもありました。それを数回に分けて解説したいと思います。

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