服部くんからの質問(6)
<質問>
この英文も駿台第2回京大入試実践模試の大問1です。今日のは第4段落の下線部です。
The amazing power of the brain arises in part from its ability to respond to the external world with an immense repertoire of possible conscious states. Suppose you look through a window and see a person approaching your house. In a fraction of a second, your brain will flip through thousands of different conscious states, each with a slightly different awareness of the person’s ever-changing position. With the addition of emotions, expectations of the future, awareness of sounds, links to memories, and so on, the set of possible conscious states is clearly enormous. Yet your brain at every instant quickly settles into just one of these innumerable states, chosen in delicate correspondence with the external world and your own personal history and condition.
下線部のeach with~という表現を僕は初めて見ました。eachがconscious stateのことを言ってるのは分かったのですが、直前のコンマをどう処理して良いか分からなかったので同格で次のように和訳しました。
⊿ほんの一瞬であなたの脳は何千もの意識状態を、つまりその1つ1つにその人の常に変化し続ける位置に対する少し違った認識を伴った意識状態を、ざっと見通すのだ。
でも、解説にはこうあります。
each with~は「それおれが~を持っていて(伴っていて)」の意。このwith~はhaving~と同意と考えることが出来るので、SV・・・, each having~「SV・・・で、それぞれが~をもっている」という、eachを意味上の主語とする独立分詞構文を訳すようなつもりで訳文を作ればよい。
2つの文の主語が全く違うのなら「独立分詞構文」だと分かりますが、eachは直前のconscious statesを指していてほとんど同じです。それに、「独立分詞構文」は次の様な慣用的な表現が多いと教わりました。
⊿天気が良ければ、僕らは明日ピクニックに行きます。
Weather permitting, we will go on a picnic.
⊿全てを考慮すると、彼女が正しい。
All things considered, she is right.
でも、each having~は慣用表現には思えません。それにwithがhavingと同じだという説明も唐突です。薮下先生ならこのeach with~をどう説明しますか?
<回答>
服部くん!withがhaveと同じだという駿台の先生の説明は正しいと思います。中学のときに習ったこんな表現を覚えてますか?
⊿その家には庭がある。
There is a garden at the house.
The house has a garden.
じゃあ、これはどうでしょうか。
⊿庭のある家
a house which has a garden.
a house with a garden
ほらね!haveとwithは同じでしょ!でも、each with~を「独立分詞構文」だと説明するのは乱暴ですね。だって、省略される接続詞は「時」か「理由」です。でも、このeach with~はどう見てもandですよね。andが省略される独立分詞構文なんて見たことがありません。andなら「付帯状況分詞構文」の方です。
薮下なら「非制限用法の関係代名詞」だと説明します。こんな具合です。訳語も付けておきます。
⊿ほんの一瞬で脳はあなたが認識した何千もの状況にざっと目を通します。そして、その状況1つ1つにはその人の変化し続ける位置に対する(前とは)少し違った認識情報が記録されているのです。
In a fraction of a second, your brain will flip through thousands of different conscious states, each of which has a slightly different awareness of the person’s ever-changing position.
withはhavingではなくてhasなってます。そして、服部くんが気になっているコンマもちゃんとこれで説明出来ます。非制限用法の関係詞はここで説明したようにand、but、becauseでつなげます。ここは「そして」でつないでいます。
each with~の表現は受験参考書にはあまり出てきませんが、そんなに珍しくはありません。こんな具合です。
⊿女の子たちが一列に並んでいる。そして、1人1人の頭にはリボンがついていた。
Girls, each with a ribbon in their hair, were standing in line.
=Girls, each of whom has a ribbon in their hair, were standing in line.
それよりも、薮下が気になるのがconscious stateの訳語です。これを「意識状態」と訳すと、意識がハッキリしているのか、それとも混濁しているのかという話になってしまいます。それに、下線部のawarenessを「認識」と訳したのなら、このconscious stateも「認識状況(人が認識してる状況)」と訳出すべきでしょう。
⊿誰かが部屋に入ってくるのが分かった(入ってくるのを認識した)。
I was conscious of someone coming into the room.
=I had an awareness of someone coming into the room.
これを「私は誰かが部屋に入ってくるのを意識した」とは訳しません。
大学に入ったら、沢山の専門書を読まされます。専門書を翻訳したものは、この駿台の先生の和訳のように何が言いたいのかさっぱり分かりません。これは、専門書が受験英語のレベルでしか翻訳されてなということです。大学入試ならこんな変な訳でも、文構造さえ読み誤ってなければ合格させてもらえますが、翻訳はこれではいけません。だから、専門書は原書で読むようにしなさい。翻訳ものを買っても、お金と時間の無駄です。
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