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服部君からの質問(4)

<質問>
これは2009年度・京都大学、大問Ⅰの下線部訳(2)です。
Sometimes human beings lose their minds―be they drunk, drugged, ecstatic or simply mad.  All are very different conditions, but with this one crucial factor in common: something very special is missing.  But what is it exactly that has vanished?  Certainly not consciousness, that first-hand, subjective experience of the world.  After all, in mindless moments our brains still function: all senses are present(,) if not entirely correct, as the final perspective on what is happening around you is a little distorted compared with ‘normal.’  Not only that, but you can move your muscles, even if with a little less control or with greater hesitancy.  So ‘loss’ of mind is not the same as loss of the most basic brain functions of sense-input, movement-output.  And the converse holds: a paralyzed patient still has a mind comparable to that of anyone else, even if crucial brain functions for interfacing with the outside world are not operational.
 赤本の訳はこうなってます。
人はときに正気を失う―酔っぱらったり、薬のためだったり、有頂天になったり、あるいはただ頭がおかしくなったりして。すべて、状況は非常に異なるが、決定的な要因が1つ共通している。つまり、ある非常に特別なものがなくなっているのだ。しかしその消えたものとは正解にはいったい何なのだろうか。それが意識、つまりあの世界に対する直接的かつ主観的な体験でないことは確かだ。何といっても、正常な思考力がないときでも、脳は機能しているのだから。自分の身の回りで起こっていることについての最終的な見通しが、「正常時」と比べれば少しばかり歪められているので、完全に正確というわけではないが、あらゆる感覚が失われず存在しているのだ。それだけでなく、正常時と比べて制御しづらく、ためらいも強く感じられるとしても、筋肉を動かすことさえできるのだ。ゆえに、精神の「喪失」は感覚的な入力に対して運動を出力するという脳の最も基本的な機能の喪失と同じではない。そして逆もまた成り立つ。身体が麻痺した患者は、外部の性愛とつながるための、きわめて重要な脳の機能が働いていなくても、やはり他の誰もと同等の精神を有しているのだ。
 赤本の解説には、as the final perspective on what is happening around you is a little distorted compared with ‘normal’について「この部分はnot entirely correct を修飾しているので、できあがった訳文でそれが伝わるように配置すること」とあります。でも、僕にはif not entirely correctという挿入表現をas以下が飾っているようには思えません。ぼくは「自分の身の回りで何が起こっているかについての全体像は最終的にちょっとゆがんでいるだけなのだから、思考力が働かない状態でも脳は働いている」が正しい訳だと思うのですが、薮下先生の考えを聞かせてください。
 <回答>
服部君!君は英文の構造をいつも的確に見抜いていますね。これは君の言うとおりで、赤本が間違っています。本来ならif not entirely correctの直前のコンマがあってもよいと思います。ま、いろんなスタイル(書き方)がありますから、必ずしもコンマが必要なわけではありません。でも、意味を明確に伝えたければ、コンマがあったほうが分かりやすい。
 そして、コンマは文を区切ります。その結果、ピリオドほどではないのですが、前後の結びつきがそこで断ち切られます。下線部の英語にはasの直前にコンマがあるのだから、赤本の解説者が言うようにas以下がその前のif not entirely correctを飾ってるはずがないのです。だから、服部君の言うとおりで、as以下の理由はall senses are presentを飾ってるわけです。こんな具合です。
自分の身の回りで起こっていることの全体像がちょっといびつだけなのだから、正常な時と比べるとまったく間違いがないとはいわないまでも、感覚能力はすべて機能しているのだ。
 もう1つ気に入らないのが、次の英文の訳語です。
⊿正常時と比べて制御しづらく、ためらいも強く感じられるとしても、筋肉を動かすことさえできるのだ。
You can move your muscles, even if with a little less control or with greater hesitancy.
 「ためらいを強く感じながら筋肉を動かす」という日本語は変です。これは「思い切って筋肉を動かせない」の方が自然です。こんな具合です。
正常な時と比べると、あまり上手にはいかないし、思い切ってとはいかないにしても、筋肉を動かすことはできる。

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