原君からの質問(2)
<質問>
これは2013年度・名古屋大学、大問Ⅰの第2段落です。
A strong current of discontent is evident in the tourist writing between 1840 and 1900, centered on the theme of urban modernity. Continental visions of the city therefore suggest a differentiation between types of urban modernity. The more technologically orientated sites of progress―railways and gasworks, for instance―represented only the most obvious and intrusive results of this modernity. On the other hand, London’s cultural products―which were perceived as being influenced by the British Empire―were praised highly as indicators of civilization and splendor, being necessary to refresh and advance the city’s pool of intellect.
赤本の訳はこうなっています。
都市の近代性というテーマを中心にした、1840年から1900年にかけて書かれた紀行文には、強い不満の傾向が見られる。そのため、ロンドンに対するヨーロッパ大陸の見方は、都市の近代性の種類によって異なることを示唆している。例えば鉄道やガス工場など、より技術志向の発展をしている場所は、この近代性の最も露骨なおしつけがましい結果としてのみ表現された。一方、大英帝国の影響が感じられるロンドンの文化的所産については、文明と壮麗さを示すもの、ロンドンの知性の蓄積が活気づき、前進するために必要なものとして大いに賞賛されたのだ。
この下線の部分の和訳は本当に正しいのでしょうか?赤本は「文明と壮麗さを示すもの」=「ロンドンの知性の蓄積が活気づき、前進するために必要なもの」を同格関係で訳しています。でも、being necessary to~は付帯状況分詞構文だから、同格にはならないと思うのですが、薮下先生の考えを聞かせてください。
<回答>
原君!いつも君の指摘は的を射ています。今回の名古屋大学の和訳もそうで、これも解説者の全くの誤訳です。最近の日本は「ものづくりの現場」だけでなく「赤本の解説者」も劣化してませんか?
この解説者は付帯状況分詞構文(以下、付分)が分かっていませんね。段落冒頭文の付分も訳し間違えています。
⊿都市の近代性というテーマを中心にした、1840年から1900年にかけて書かれた紀行文には、強い不満の傾向が見られる。
A strong current of discontent is evident in the tourist writing between 1840 and 1900, [being]centered on the theme of urban modernity.
付分は直前文との「同時」状況か「連続」状況を付加的に説明する表現技法です。同じ付帯状況でもwith+O+Cの「付帯状況のwith」には意味上の主語の「O」が最初から与えられているので誤訳の心配はありません。一方、付分では省略されることがほとんどですから、主語に注意が必要です。赤本の著者はどうも次の様に誤って付分の主語を解釈している様子です。
⊿その紀行文は都市の近代性というテーマを中心として扱っている。
The tourist writing is centered on the theme of urban modernity.
でも、ちょっと考えると分かるのですが、「都市の近代性ばかりを扱った紀行文」なんてあるわけないですよね。そんなもの面白くもなんともありません。それに、「その紀行文には強い不満の傾向が見られる」と言われると「何に対して不満があるのか?」という疑問がわいてくるのに、右を読んでも答えがありません。
⊿その強い不満の矛先は、都市の近代性というテーマに向けられている。
The strong current of discontent is centered on the theme of urban modernity.
ほらね!こうすると「何に対して不満があるのか?」がハッキリ分かります。あ、strong currentというのは強い「潮の流れ」を言うのですが、ここでは不満の大きさと方向とを表現しています。
名古屋大学はこの付分を問題化せずに、第1段落に出てくる付分に下線を引きました。こっちの方が意味上の主語の特定が簡単で、平易な問題に仕上がってます。でも、京都大学だったら、この第2段落の付分を和訳させるでしょうね。
原君が指摘してくれた [, being necessary~]の方は次回解説します。
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