意思能力を有しないときに行った不動産の売買契約は、後見開始の審判を受けているか否かにかかわらず効力を有しない。
(令和3年度・問5・選択肢4)
【正解】正しい
<解説>意思能力とは、自分のした法律行為の結果を判断できる能力のことをいう。意思表示を欠く状態で行った法律行為は、無効(民法3条の2)。後見開始の審判を受けているか否かは結論に無関係。
【ロジック】
「AはBである」という断定命題に「Cであるか否かに関わらず」という補足情報が付いています。この設問がダメなのは、それを「補足条件」とも捉えることもできるからです。具体例を挙げて「補足情報」と「補足条件」の違いを説明しましょう。
<具体例>宿題が終わったらモバゲーをやろうね!
主文は「私たちはモバゲーをやる予定である」です。それを「宿題が終わった後で」が補足しています。先ず、それを「いつやるのか?」を補足的に説明していると捉えてみましょう。この場合、モバゲーをやるという計画に変更はありません。主文には宿題が終わっても終わらなくてもモバゲーをやるんだという強い決意がこもっています。これが補足情報です。
一方、「宿題が終わった後で」を条件だと捉えることもできます。モバゲーをやるには宿題の終了という条件をクリアしないといけません。それができないとモバゲーはできません。これが補足条件なわけです。
さて、設問に戻りましょう。設問の命題は次の様な断定命題です。
意思能力を欠いた状態での法律行為は無効である。
この命題に次の様な補足が付いています。
意思能力を欠いた状態での法律行為は、後見開始の審判の有無に関わらず、無効である。
この設問の出題者はアホなので、「後見開始の審判の有無に関わらず」を補足情報のつもりで加えました。でも、次の様な状況も考えられます。
精神障害者や認知症患者は制限行為能力者です。それと同時に、精神障害や認知症によって意思能力がありませんから意思能力の欠如者でもあります。彼らが成年被後見人として後見開始の審判を受けた場合は「取消可能」の対象者になります。一方、彼らを意思能力欠如者と考えると「無効」の対象者にもなります。つまり、「取消可能」と「無効」とか競合するわけです。もし「後見開始の審判の有無に関わらず」が補足条件なら、それが命題に影響を与えるわけですから、この設問は誤りだと言えます。だって、後見開始の審判があった場合は「取消可能」の対象者と見做されるので「無効」ではありませんからね!言い換えると「後見開始の有無」は「意思能力欠如による無効」にメチャ大きな影響を与えるわけです。次回はロジックだけでなく法的な解釈からも設問を正しく書き直してみましょう!
・
Post a Comment