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借り物の文化、文明(1)

もし東洋に西洋とは全然別個の独自の科学文明が発達していたならば、どんなにわれわれの社会の有り様が今日とは違ったものになっていたであろうか。
もはや今日になってしまった以上、もう一度逆戻りをしてやり直す訳には行かないことは分かりきっている。
西洋の方は順当な方向を辿って今日に到達したのであり、我らの方は、優秀な文明に逢着してそれを取り入れざるを得なかった代わりに、過去数千年来発展し来った進路とは違った方向へ歩み出すようになった。そこからいろいろな故障や不便が起こっていると思われる。
もっともわれわれを放っておいたら、五百年前も今日も物質的には大した進展をしていなかったかも知れない。
だがそれにしても自分たちの性に合った方向だけは取っていただろう。そして緩慢ではあるが、いくらかずつの進歩をつづけて、・・・他人の借り物でない、本当に自分たちに都合の良い文明の利器を発見する日が来なかったとは限るまい。
谷崎潤一郎「陰影礼賛」

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