無意味という意味(2)
『麦本三歩の好きなもの』の「麦本三歩は生クリームが好き」の中にも同じような件(くだり)が出てきます。図書館から借り出した本を紛失した子がいて、弁償しに来たものの「ぼろっぼろの本なくしたら金を払わされてさ、あんな本程度でだりいわ」と開き直る子を三歩の先輩が上手に窘(たしな)めます。そのしゃべり方から三歩は蛇を想像します。
先輩がしているのは、じわりと相手の心に巻き付き耳の穴に侵入し生きたまま相手に自らの内蔵の温度を感じさせるような、そんな喋り方。
この辺の描写は、住野よるが得意とするところです。先輩のこの怒り方に感動した三歩は、自分もできるようになりたいと先輩に教えを請います。すると先輩は三歩を公立図書館に連れて行って、子供たちに読み聞かせをする手伝いをさせます。なぜこんな所に連れてこられたのか意味が分からない三歩は必死で考えて次のような結論に達します。
なるほど、今まで私は子供たちにまで大人を相手にするように接しなければならないと思い、でも思ったような反応をしてくれない子ども達が苦手だった。でも、そうじゃなく、良くないことをしている人たちのことを逆に子ども達とおなじだと捉えることで、寛大な心持ち、より優しく分かりやすい言葉で、きちんと感情を伝えなさいと、それを教えようとしてここに連れてきてくれたんですね?
それに対して先輩は「いや、違います」と鮸膠(にべ)もなく否定してこう言います。
三歩ちゃんそんな難しいこと考えてたの?私そんなこと考えて生きてないよ!
何の役にも立てなかったと言う三歩に対して先輩はさらにこう言います。
ううん、三歩ちゃん役に立ってたよっ。いつもいないお姉さんがいるってことで、皆のテンションが上がってやりやすかったし、それに男の子達が良いところを見せようとして暴れたりしなかった。
つまり、そのときそこにいるだけで良いと言ってます。いちいち意味を考えるな、と言うわけです。住野よる、恐るべし!あ、薮下の風邪は悪化の一途をたどっています。困ったものです。
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