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車戸君からの質問(15)

 <質問>
僕は哲学・思想系の文章に弱いので、その分野の強化のためにと先生がお貸しくださったバートランド・ラッセルの本にある「monotonous life」からの質問です。
The pleasures of childhood should in the main be such as the child extracts himself from his environment by means of some effort and inventiveness.
これは「薮研」の『英文和訳道場』の第28回にも登場する英文です。そこで薮下先生はこの英文を次の様に和訳しています。
子供時代の楽しみとは、その大部分は、何らかの努力や創作力でもって、自分の身の回りの単調さからその子が抜け出すようなものだ。
そして対訳の日本語はこうなっています。
幼年時代の楽しみというものは、大体において、多少の努力と創意工夫によって、子供みずから、その環境からそれ(楽しみ)を引き出すものであるべきだ。
微妙に違っている気がするのですが、どちらが正しいのでしょうか?また、ラッセルの本の解説には、「extracts は他動詞、目的語は前のasである」とあるのですが、意味不明です。目的語が前のasとはどういう事なのでしょうか、教えてください。
<回答>
車戸君!ちゃんと「ラッセル」を読んでいるみたいですね。とっても感心なことです。実は、数日前にも匿名希望の人から「薮研」のこの和訳についてご指摘がありました。彼(彼女?)も薮下の訳文が間違っているのではないかと言ってます。いつも思うのですが、「薮研」の精度はそんなみんなのお陰で保たれています。本当に、ありがとう!!
解説者が言いたいことは大体こんなことだと思われます。すなわち、asは関係代名詞で、先行詞がsuch(=those pleasures)だから、関係代名詞節を完全な文に復元するとこうなります。
子供はちょっとした努力や想像力で、自分の身の回りの環境から、楽しみを自分で引き出す
The child extracts those pleasures [by] himself from his environment by means of some effort and inventiveness.
そして、このthose pleasuresが関係代名詞asになって、飾りの文の一番前に出たのがラッセルの英語だと言いたい様子です。一方、薮下はこのasを単なる「様態のas」と考えて次の様に訳出しています。
子供は自分の身の回りの(単調な)環境から自分自身を引き出す
The child extracts himself from his environment
テーマが「退屈な生活」なのだから、子供は自分で工夫してそんな生活から抜け出さないといけない、と薮下は考えたわけです。でも、文脈を考えるとこれは確かに変です。ラッセルが言いたいことは、「単調な生活」の重要性なわけですから、そこから抜け出してはいけません。これは薮下の全くの誤訳です。
薮下が見誤ったのはhimselfで、これをextractの目的語にしてしまって「自分自身を引き出す」と訳出しています。それにしても、ラッセルは悪文家ですよね。こうするともっと分かりやすい英語になります。
The pleasures of childhood should in the main be such as the child himself extracts from his environment by means of some effort and inventiveness.
「英文和訳道場」の第28回目の和訳と解説は早速訂正させていただきました。匿名希望さん!そして車戸君!ご指摘ありがとうございました。匿名希望さんがご指摘くださった他の箇所もちゃんと訂正いたします。もうちょっと待っていてくださいね。

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