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英語を読むためのルール16・その3

<質問>
これは『桐原書店・英文解釈の技術100』の「77.(否定)×(否定)=肯定を忘れるな」にある、九州産業大学が出題した英文とその和訳です。
My uncle George loved words as much as a singer loves music.  The first thing he did when he came to spend the winter with us was to bring a big dictionary into the dining room.  Hardly a meal was finished without the children jumping up to consult that dictionary.
おじのジョージは、歌手が楽譜を大事にするのと同じくらいに、ことばを大事にした。彼が私たちの家に来て冬を過ごすときには、まず大きな辞書を食堂に持ち込むのだった。すると、食事の際には必ずと言っていいほど、子供達は跳び上がって席を立ち、その辞書を引いたものだった。
僕は「子供達がその辞書を引くために(辞書の所へ)飛んで行くことなしに、食事は終わらなかった」をひっくり返すと、「食事が終わるとすぐに、子供達はその辞書を引くために(辞書の所へ)飛んでいった」となると思います。それに、いくら言葉が好きだからといって、食事中に辞書を引くのはあまりにも「お行儀が悪い」と思うのですが、薮下先生はどうお考えでしょうか?
<回答>
今枝君!君の言う通りで、これは全くの誤訳です。この著者は一体何を考えているのでしょうかね?!ひっくり返すところからもう一度考えてみましょう。
彼らはケンカをせずに決して会うことはない。
ひっくり返すと→彼らは会えば必ずケンカする。
They never meet without quarreling.
著者が言うように、2重否定は強い肯定になるわけです。だったら、「食事がなかなか終わらない」をひっくり返すと「食事が終わるとすぐに」とか「食事が終わるか終わらないうちに」とならなきゃなりません。もし著者がやったように「辞書を引くのに辞書のところに飛んで行くことなしに、僕らは食事をすることはない」の意味の英文にしたければ、こうなります。
食事をするときはいつでも、僕らは跳び上がって席を立ち、その辞書を引いた。
We never eat without our jumping up to consult that dictionary.
『桐原書店・英文解釈の技術100』と言えば、上級者向けの『駿台・英文解釈教室』へのつなぎとして、結構売れてる問題集だと聞いてます。それがこの体たらくでは困ったものです。そして、もう1つ気になるのは「(否定)×(否定)=肯定」のルールを強調している割には、同じページの「演習77」ではあっさりとこれを裏切っていることです。

I don’t understand why some people insist on filling the air with noise.  They can’t stand to be in a car without having the radio on.  They can’t stand being anywhere with nothing but the natural sounds of earth in their ears.

なぜ外気を騒音だらけにするぞと言わんばかりの人がいるのか理解できない。そういった人たちはラジオをつかっぱなしにしないでは車に乗っていられない。彼らは地上の自然の音しか聞こえないでは、どこにいるのも耐えられない。
ね!「(否定)×(否定)=肯定」になってない。ちゃんと「車に乗っているときには必ず、ラジオを付けっぱなしにしている」とやらなきゃダメでしょ!そして、最終文をこの著者は読み違えています。曰く、『nothing but = onlyで、with~in their earsは「~が耳に入っている状態」の付帯状況』。えっ?そうじゃないでしょ!!ここは2重否定なのだから、with nothing を without anything にして、こう説明しなくちゃダメでしょ!
They can’t stand being anywhere without anything but the natural sounds of earth in their ears.
ほらね!これで not~without の2重否定になりました。そして否定文の中のanything but Aは「A以外は何も~ない」だから「自分の耳には自然の音以外何も聞こえない」の意味になるのです。このレッスンは2重否定がポイントなのですから、これを付帯状況なんかにすると、2重否定にならないじゃないですか!さらに、2重否定なら強い肯定で訳出しなきゃならないので、本当は「彼らは自然以外の音さえ聞こえれば、どこにいても我慢ができるのだ」としなくてはなりません。でも、それでは最初の文の「自分のいる空間を騒音でいっぱいにすることを要求する人がいる理由が分からない」と矛盾を来してしまいます。だって、自然以外の音がすべて騒音だとは限らないからです。だから、否定×否定がいつも強い肯定になるとは限らないわけです。
あ、桐原の「なぜ外気を騒音だらけにするぞと言わんばかりの人がいるのか理解できない」も変な訳ですね。「外気」って何ですか?それにinsist on Aには「Aを主張する」だけじゃなく「Aを要求する」の意味があるので、「と言わんばかりの」なんて変な訳を付ける必要はないと思いますよ。
薮下は今まで何度も繰り返してきましたが、問題集や参考書を勉強していて、その内容が理解できなかったからと言って、自分がバカだとは思わないでくださいね。理解できないのは、大概は書いている方がバカなのです。そんな説明で理解しろと言う方が無理なのですよ!!

4 Comments

  1. ? wrote:

    英文解釈100の間違え指摘がありましたが、本の方では『食事の際には必ずと言っていいほど…』とあり先生の訳には『食事が終わるとすぐに…』とありますが、この文章を二つに分けると①子供達が辞書を引くために飛び上がることなしに②終えられる食事は~ほとんどない~』となります。元々hardlyには(ほとんど~ない)という意味があり先生は直接hardlyを(ない)と言う意味で訳してますがこの場合肯定に直すと先生のおっしゃる通り『食事が終わるとすぐに』でいけますがhardlyを頻度の否定とみなすと『終えられる食事はめったにある』となり全訳すると『終えられる食事にはいつも子供達が辞書を引くために跳び上がることがある』となり終えられる食事の途中に辞書を引いていることがあるのだという意味にして捉えることができませんか?さすがに必ずとまで来ると言い過ぎだと思いますが…間違ってたらすいません(泣)

    水曜日, 2月 20, 2013 at 10:47 PM | Permalink
  2. Z社長 wrote:

    上記の内容についての疑問です。
    「hardly」を辞書で引いてみると
    (ジーニアス英和辞典G4より)
    「文頭で用いる場合は、常に倒置が生じる」
    と書いてあります。
    つまりこの場合、
    Hardly was a meal finished
    となっているはずです。
    しかし、この場合は倒置が起きていません。
    なぜでしょうか。
    そこで、今度は英英辞典を引いてみました。
    そしたらこんな例文がありました。
    (OXFORD現代英英辞典より)
    Hardly a day goes by without my thinking of her.
    これを見て、
    この「hardly」は文否定ではなくて語否定であるのではないか。という仮説を立て、それに基づいて訳してみました。
    すると、以下のようになりました。
    (逐語訳)
    ほとんどの食事は、子供たちが辞書を引くために立ち上がることなしに終えられることはない。
    (意訳)
    ほとんどすべての食事中に、子供たちは辞書を引くために立ち上がる。
    先生、僕の立てた仮説は正しいでしょうか?

    木曜日, 2月 21, 2013 at 12:09 AM | Permalink
  3. yabu wrote:

    Z社長!見事な推論です。やっぱり君は頭がいいですね!否定語が文頭に出ると疑問文型の倒置が起こるはずなのに、それが起こってないところから、hardlyがfinishを否定しているのではなく、a mealを否定していると考えた所なんて大したモノですよ!まったく君の言う通りだと薮下も思います。そして、君がやった逐語訳までは薮下もまったくの同意見です。だからといって君の「意訳」のような意味にはなりません。では、せっかくですから君の捜してきた例文を使って説明しましょう。次の2つの英文を比較してみてください。
    ⊿僕が彼女のことを考えることなく1日も過ぎては行かない。
    =僕は毎日彼女のことを考える。
    Not a day goes by without my thinking of her.
    ⊿辞書を引くために立ち上がることなく、1度の夕食が終わることがなかった。
    =毎回夕食が終わると、子供達は辞書を引くために立ち上がった。
    Not a meal was finished without the children jumping up to consult that dictionary.
    さて、こんどはnotをhardlyに換えてみます。
    ⊿僕が彼女のことを考えることなく1日が過ぎて行くことはほとんどない。
    =僕はほとんど毎日彼女のことを考える。
    Hardly a day goes by without my thinking of her.
    ⊿辞書を引くために立ち上がることなく、1度の食事が終わることはなかった。
    =ほとんど毎回夕食が終わると、子供達は辞書を引くために立ち上がった。
    Hardly a meal was finished without the children jumping up to consult that dictionary.
    ポイントは、notなら「1日も過ぎて行かない=毎日が過ぎて行く」、hardlyなら「ほとんど毎日が過ぎて行く」になることです。だから問題文もnotなら「食事が1回も終わらない=毎回食事が終わると」、hardlyなら「ほとんど毎回食事が終わると」になるのです。
    薮下の反省点は、hardlyをfinishedに掛けて訳してしまったところです。つまり、「食事が終わるとすぐに」とか「食事が終わるか終わらないうちに」とやってしまってますね。これは薮下の誤訳です。ですが、「ほとんど全ての食事中に」ではなくて「ほとんど全ての食事が終わった時に」であることには何の変わりもありませんよ!問題集の著者やZ社長の訳語にはwas finishedが全く反映されていないのが誤訳の原因だと思われます。

    木曜日, 2月 21, 2013 at 8:32 AM | Permalink
  4. yabu wrote:

    <回答>
    ?さん!「Z社長からの質問」にも書きましたが、?さんのご指摘の通りだと思います。hardlyはa mealを飾っているので、問題の英文は「子供達が辞書を引くために跳び上がることなしに、食事が終えられることは滅多にない」という食事の頻度を表現してるわけです。そして、それをひっくり返すと、「食事が終えられたときには、毎回ではないけれどもほとんどの場合に、子供達は辞書を引くために跳び上がる」になるわけです。
    さて、?さんは「食事が終えられる」を「終えられた食事」と名詞化してますよね。そうしてしまうと、「2重否定→強い肯定」の転換の際に、「食事は終わらない」→「食事が終わるときはいつも」のようにひっくり返らなくなってしまいます。そういうわけで「(終えられる)食事にはいつも子供達が辞書を引くために跳び上がる」という全訳が出来上がってしまったと思われます。でも「終えられる食事」ってヘンですよね!

    木曜日, 2月 21, 2013 at 9:45 AM | Permalink

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