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AKB47君の憂鬱(11)

<質問>
以下は1996年度の京都大学・大問Ⅰの英文からの抜粋と、その部分の赤本の和訳です。
    Years later I wrote a novel in which a character reads the blanket story.  By incorporating the lost book into ‘my’ book I found a way to restore it to some kind of existence outside, and yet within, ‘me.’  Now as I write about it again the blanket story gains significance and structure, becomes a private myth in my scripted childhood, overwhelming everything else, much as the hole consumed the blanket.
    何年も経ったのち、私は作中人物がこの毛布の話を読む小説を書いた。その過去に紛れた本を「私の」本に組み入れることによって、「私の」外にあり、それでいて「私の」中にある、ある種の存在によみがえらせる術を見つけ出した。今また毛布の話を書いていると、そこには意味と構造が備わり、脚本家された私の子供時代における私だけの神話となり、ちょうど穴が毛布を食べ尽くしたように他のあらゆるものを圧倒する。
以前先生から、「クォーテーションマークは引用以外にも、強調、比喩、造語(普段使わない様な用法)などにも使うことがある」と教わったことがあります。この問題文の下線部にもシングルクォーテーションマークが出てきます。僕にはこのシングルクォーテーションマークの用法が今イチ判然としません。引用ではないのは明らかなので、比喩か強調だと思うのですが、どう訳したら良いのかわかりません。赤本の、「私の」外にあり、それでいて「私の」中にあるある種の存在によみがえらせる術、という訳文はただの直訳なので何を言っているのが分かりません。どうか納得の行く説明をお願いします。
<回答>
AKB47君!このシングルクォーテーションマークは君の言うとおりで、比喩表現だと思われます。だから、「私の」外にある、とか「私の」中にある、という比喩表現が実際に何を意味しているのかを考えないといけません。
この文章のテーマ(話題)になっているものは「毛布の話」で、それは幼い頃の著者の記憶の中にあるものなので、「私の」中なのでしょうね。一方、作家である著者が「毛布の話」を自分の著書に載せることで、他の人もその話を知ることができるので、「毛布の話」は「私の」外に出て行くわけです。
下線部にはrestore A to Bが出てきます。これは「AのBを取り戻す」が原義で、こんな風に使います。
家具を生き返らせる
restore the furniture to life
これは「家具の命を取り戻す」が原義です。問題文はこうなっています。
「私の」外と、それと同時に「私の」内に、毛布の話にある種の存在を取り戻す
restore it(=the lost book) to some kind of existence outside, and yet within ‘me’
これは君の言う「直訳」ですから、全ての比喩表現を具体化します。the lost bookはthe blanket storyのことだから、赤本がやっているように「過去に紛れた本」とやるよりも「内容を良く思い出せない本」の方が良いでしょう。incorporate A into Bで「AをBの中に組み込む」だから赤本は「私の本に組み入れる」としたのでしょうが、これも比喩的な表現ですから、和訳する際には具体化して「自分の著書のなかで取り上げる」とか「自分の本の中でストーリー化する」としてやります。だから、下線部はこんな訳文になります。
「内容を良く思い出せないこの本のことを、自分の著書の中でストーリー化することが、自分の思い出の中にありながら、同時に他の人にもそんな話があったことを分かってもらえる1つの方法だということに私は気がついたのです」

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