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■AKB47君からの質問

<質問>
以下は、2002年度の京都大学の下線部訳と赤本の解答です。
One of the requirements for this kind of life is the sameness of a meaning that we communicate among ourselves and come back to repeatedly in our own cerebral life.  A single proposition returns as a duplicate over and over again.  We tell it to other people or quote it as having been said by someone else, and we can place the statement within a systematic exposition of a scientific field after confirmation.  The sameness of a meaning occurs with the varying interpretations people might give the meaning, and with the differences in vagueness and distinctness the proposition might enjoy in various minds.  Unless it were one and the same statement, we could not see such differences as being differences at all: we could not have many interpretations if the propositions were themselves different, and we could not speak of a vague possession of a meaning unless a core of sense remained the same between its vague and its distinct states.
こうした種類の生活を送るために必要とされるものの1つは、我々がお互いに伝え合い、そして自分自身の知的生活の中で繰り返し立ち返る、意味の同一性である。ある1つの命題が、同一物の複写という形で、何度も繰り返し戻ってくる。我々はそれを他人に伝えたり、あるいはすでに他の誰かが述べたこととして引用する。そして、確認作業を行ったのちに、科学の一分野の体系的な説明の枠内に、その命題を位置づけることができる。人々がある意味に対して与えうる解釈は多種多様であり、その命題が様々な人々の頭の中でもちうるあいまいさや明確さは違いはあるものの、意味の同一性は生じるのである。それが全く同一の陳述でなければ、我々は決してそういった違いを違いとして認識することは出来ないだろう。命題自体が違っているなら、多様な解釈をすることはできないだろうし、意味の核心部分があいまいであろうが、明確であろうが、同一なものであり続けなければ、その意味をあいまいに理解しているということもできないだろう。
僕の和訳はこんな風になりました。
「ある1つの命題が、同じものとして、何度も何度も繰り返される。僕らはそれを他の人に言ったり、すでに誰かが言ったものとして引用したりする。そして、僕らはその文章を確認した後で、科学の1つの分野の体系的な説明の中に位置づけることができる。意味の一致は、人がその意味に与える様々な解釈と共に、また、もしかするとみんなが心の中に持っているかもしれない命題の曖昧さと明確さの違いと共に起こる」
自分の訳文を見ても、赤本の正解を見ても、僕にはこの英文が言いたいことが全く理解できません。当然、僕の答案が正しいのかどうかさえ見当がつきません。これは僕の頭が悪すぎるせいなのでしょうか。僕は京都大学で勉強をするには学力が不足しているのでしょうか?薮下先生の忌憚のないご意見をお聞かせください。
<回答>
AKB47君!今までの君はふてぶてしいまでの自信に満ちあふれていたのに、今は何だかその自信を全部どこかに置き忘れて来てしまったみたいですね。そんな君も悪くはないのですが、このままでは受験勉強にも力が入らないだろうし、何とかしてあげないといけませんね。
幕末以降、色んな思想的、科学的な考え方が西洋から日本へ流れ込んできました。普通なら、それが書かれている言語で勉強します。でも、日本人はそれを全部日本語に翻訳しようとしました。当然のことなのですが、日本人には馴染みのない新しい考え方を表現できる言葉なんて日本語の中にはなかったので、漢語から借用して新しく作らなければなりませんでした。「思想」、「哲学」、「経済」、「資本」なんかもそんな和製漢語です。厄介なのは、和製漢語は僕らが普段使っている日常言語と違って、パット見では意味が全然分からないことです。哲学分野の翻訳なんて最悪で、哲学者自身が新しい言葉をたくさんねつ造するので、それに当たる新しい訳語をそれぞれに振り当てないといけません。それがまた何を言いたいのかサッパリ分からないのですよ!だから、僕らが哲学を勉強するには、哲学を翻訳するのために作られた和製漢語を先ず勉強しないといけません(それに対して、カント哲学のドイツ語や、ジェームスのプラグマティズムの英語は、そこら辺のおばちゃん達が普通に使っている日常言語で書かれているので、おばちゃんが読んでも分かるそうです!)
例えば、ここにも登場するthe sameness of a meaningは「意味の同一性」と訳出することになっているのですが、これが「色んな人が言葉を使って主張する考えが、同じ内容だと分かること」だと知らないと、何を言っているのかチンプンカンプンなわけです。この京大の問題文は、現象学という哲学の入門書なので、現象学の中で使っている「意味の同一性」が分かってないと、この英文全体の意味なんて分からないのですよ!京大は2000年くらいまでは、こんな様な問題を良く出していました。だから、京大を受験するならBertrand Russell(バートランド=ラッセル)を読んでおきなさいと言う先生もいたくらいです。でも、最近ではこんな英文を受験生に「翻訳」させても無駄だと気がついたのか、全然出題されなくなりました。
だから、こんな問題ができなくてもいいんです。そもそも西周がphilosophyに「哲学」という和製漢語を当てた時点で、日本に哲学が根付く可能性なんかなくなってしまったのです。西洋に追いつき追い越せと躍起になっていた頃はまだ良かったのですが、経済大国などと呼ばれるようになっていい気になってる現在では、哲学への情熱なんてどこかへ行ってしまい、日本の大学から「哲学科」がものすごい勢いで消滅しています。
薮下が1つ気になるのは、この問題文はRobert Sokolowskiが書いた『Introduction to Phenomenology』の一節なのですが、この原文に京都大学は手を加え、書き換えて出題していることです。実は、上の問題文のwithはもともとはoverでした。こんな具合です。
The sameness of a meaning occurs over the varying interpretations people might give the meaning, and over the differences in vagueness and distinctness the proposition might enjoy in various minds.
A occur with Bだと「AはBと共に起こる」になってしまい、「人々がある考え方に対して与える解釈は様々であり、その考え方が人の心に与える曖昧さや明確さには違いがあるような状況と共に、意味の同一性が起こる」となって意味不明です。現象学の元祖フッサールが言いたいのは、「人はある考え方を色々と解釈したり、その考え方を人によっては曖昧にしか理解できなかったり、ちゃんと理解した入りするのだけど、そんな状況を超えて意味の同一性は起こる。つまり、例えば現象学に対する色んな解釈を聞いても、それがどんなに曖昧な説明であっても、そんな状況なんかものともせずに、それが現象学だと僕らは分かる」と言いたいわけです。ね!A occur with Bじゃダメだって分かるでしょ!A occur overじゃないとフッサールが言いたいことは全く通じないわけです。だから、赤本がやっているように「あるものの」なんていう譲歩の意味なんか with にはありません。君がやったように「と共に」としか訳せないのです。だから、AKB47君は決して間違ってはいませんよ!overをwithにした京都大学がいけないのです。
この問題を作った作問委員は、overをwithにした方が受験生にとって少しは簡単だろうと考えたのでしょうが、そうすることでかえって意味が分からない英文になったのです。この人にとって「現象学」なんてどうでも良かったのでしょうね。だから、こんな英文を一生懸命「翻訳」しようとしても全くの無駄ですよ!

One Comment

  1. moumoon wrote:

    この講義に関係ない質問ですいません。
    英単語には語尾によって名詞、形容詞、副詞などなど見分けられると思いますがいまいちどの語尾がどれになるのかわかりません。
    くわしく教えてください!

    火曜日, 11月 27, 2012 at 7:31 PM | Permalink

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